お茶の声が聴こえるか

髪を切るのは誰かに出会う勇気が欲しいから。

先日、髪を切った。
パーマもかけた。くるくる。

「ふんわりしていて
 ざらッとした感じにしてください」

 

担当してくれた美容師さんはお店の店長で、
仙台から出て10年もの歳月を見知らぬ土地の
見知らぬ人々の髪を変身させる事に費やしてきた。

途方も無い話だ。

私は生きることに関してはもう
20年も継続している
いわば生きるプロであると言えるわけだが
その他には何も無い。

 

彼は、中学生の頃にはもう
漠然と決めていたそうだ。

美容師になる、と。

大した理由では無い。
ただ当時に色気づいていてさ、
美容師が洒落ていると思って
周りにも言いふらしていたら
引くに引けなくなっただけだよ。

そう、困った顔で話してくれた。

 

私は彼のことをもっと知りたくなった。
私は彼にもっと面倒な質問を投げかけることにした。

 

「どんな学生でしたか?
 私は音楽と料理しか知らない
 学生でした。       」

 

また難しそうな顔をして、一言。
「フラフラしていたよ。」
と苦笑まじりに絞り出してくれたのだった。

 

ところで、私がここに何しにきたかというと
街角!働くあなたにインタヴュー!
ではない。当たり前だが。

もちろん髪を整えにきたわけである。

 

10年かけて培われた技術は流石だった。
掴み所のない青年に
気怠い質問責めをされながら
着々と髪を切って巻いて、
薬液に浸していく。

ロット(髪を巻きつけてカールさせる芯)
を外して、ドライヤーで全体を乾かす。

それで、終わり。

 

普通はここから微調整や
気になるところはありますか
これで満足できましたか

などと尋ねてくるものだが
彼は違った。

 

もう、これで完成なのである。

 

私も何一つ不満はなく、いい気分だ。
そこへ水を差すような言葉は、いらない。

 

「アンニュイな感じが似合うから
 ちょっと邪魔かもしれないけれど
 前髪が目に入りそうだけれど
 このままでいってみてよ。   」

 

アンニュイ。

 

褒められているようで
そうでもないような
不思議な言葉。

 

ファッション用語としてのそれは
"神秘的な"、"不思議な"
という意味で雰囲気のある
魅力と置き換えられて使われている。

当然、彼もセールストークとして
リップサービスしてくれたに過ぎないことは
私だって理解している。

 

けれど、赦された気がしたんだ。

 

気だるくても、退屈でも
君にはよく似合っていて
それが君らしいってことなんだよ

 

そんな風に、言ってもらえたような
都合のいい解釈を私は作り上げた。

 

はっきりしなくて、複雑で
どこかピントの合わない半端な
そしてどこか落ち着いた雰囲気

 


アンニュイ*1

 

 

良いとか悪いとかじゃなくて
それが似合ってしまうのが私で
このままで行ってみよう

 

社会に、赦された気分だった。

 

 

確かに、
明瞭で明晰で明快で
しっかりと答えの出ていることは
面白い。分かりやすい。

そして正しい。

 

だからこそ正しさは求められるし
正しくてはっきりしている人は
憧れのマトになる。 

ピンと貼ったピアノ線は正しい音で
美しい響きを作り出してくれる。

 
けれど、正しいばかりじゃ誰も救われない。
けれど、触れたものをみな切り裂いてしまう。

 

みんな、矛盾を抱えて生きている。

1か0かで決められない
煮え切らない白と黒が混在した
グレーな世界で私たちは過ごしている。

どんなに強そうで、断固としていて
凛として見える人だって
胸の真ん中には真っ黒な穴が空いている。

誰しもアンビバレンスなんだ。

 

だったら私は、私だけは
退屈だと言われても
よくわからないと言われても
アンニュイに生きていこうと思う。

 

複雑に絡まり合った毛糸のマフラーみたいに
優しく受け止めて、抱きしめて
包み込んでやれるような人であり続けよう。

 

 

世の中にとって正解かどうか
"みんな"に受け入れられるか
それで得するか損するか

 

全部いまは無しにして
ただ等身大の自分自身が
似合うし、それが良いんだって

言ってもらえた気分だったんだ。

 

 

爽やかな柑橘の香りが漂う
オーガニックのワックスを購入
いつもつけている香水とも
喧嘩しなさそうだ。

 

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#日記 #日誌 #エッセイ

*1:退屈・気怠い