お茶の声が聴こえるか

発作

バスタ新宿

 

私は、出雲大社へ向けて

夜間高速バスに飛び乗った。

 

出発の3時間前に取った席へ

ドカっと腰掛けて買ったばかりの

寿司弁当をムシャムシャと頬張る。

 

 

今日は、クリスマス。

 

 

恋人も、友達も、家族でさえも

みんなが忙しそうにどこかへと

出かけて行く。

 

師走の中でも特に街を光が

駆け巡る日が12/25ではないか。

 

 

さて、ひとり。

 

優れない体調を鑑みて

家に篭ってゆっくりと過ごす

優しいクリスマスもアリだった。

 

けれど、許せなかったんだ。

今日という1日が来年、再来年

何があったか思い出せないような

淡白な25日に、今年はしたくない。

 

 

そもそも、どうして私が

大好きな温泉巡りではなくて

箱根でも、草津でもなくて

わざわざ島根へ飛ぶ事にしたのか。

 

実は、二択で迷っていた。

 

ひとつ目の選択肢が

荻窪のオールドアロウへ行くこと。

 

お気に入りのイラストレイターが

しばしば訪れているらしく

出向けば何か出会いがあって

新たな世界がそこには懇々と

広がっているのではないだろうか

 

そんな希望を胸に燃やしながら

ネットで検索をかけてみれば

"月曜定休"なんて冷たい4文字。

 

外は7度、なんて寒いんだ。

 

残ったもう一つの選択が

島根県だった。

 

完全に惚れてしまった作家さんが

生前に出かけてすてきな出会いと

経験ができたと書いていたから

 

ただそれだけの理由で私は

ノープランで家出するかのごとく

着の身着のままカバン一つもって

飛び出したのだった。

 

 

ただ、片道10時間もかかる

夜行バスに乗るか否かについて

私はだいぶ迷った。かなり迷った。

 

 

普通に考えたら

こんな発作みたいに飛び出すよりも

ちゃんと前々から計画を練って

一緒に行く相手でも探すか

一人でどう回るか

 

期待で胸を膨らませるのが

正当であるように思える。

 

あるいは

そのお金で前々から欲しかった

包丁や鍋を買うだとか

無駄遣いしないで貯金するとか

真っ当な使い道があったはずだ。

 

 

最後に背中を押してくれたのが

やっぱりインターネットだったのが

私らしいな、と思う。

 

 

憧れのあのライターなら

トレンディーな編集者なら

そしていつもの自分なら、どうする

 

 

真っ当な人生も、正当な人間性

いらないや。

 

 

もっと自分がその時感じたこと

やってみたいと思ったこと

こみ上げる「発作」衝動に

従ってみようと思う。

 

 

この世界に正解なんて、ない。

 

自分の手で自分の道を

正解にするしかないのだから

胸張って堂々と歩いてみる。

 

メリークリスマス。