お茶の声が聴こえるか

2018-01-01から1年間の記事一覧

かつて芸術は日常だった

秋葉原まで久しぶりにサイクリングしてみた。というのも、あまりの運動不足に身体の線(特にお腹とほっぺた)が歪み始めたからだ。どうして惑星が体積を増すほどに他存在を引き寄せるように、人間も体積を増すほどに他者存在を惹き寄せてはくれないものかと考…

だから今日、僕はゴミになります。

2018年12月も暮れを迎えようとしている。 年の瀬ということもあってか、ゴミを捨てに行くと街中に沢山のそれが溢れている。みんな大掃除をしているのだろう、偉いことだ。その内訳は洋服、食器、家具、家電…多岐にわたり、小さな山脈を形成していた。僕はそ…

物語の種子

「モノ需要よりコト需要」と言われるようになって久しい。 この言葉はモノが売れなくなって存亡の危機に瀕したビジネスマンたちが作った言葉だ。飽食の時代にて僕らはこの世の全てを手に入れた。空腹も、その身を守る衣服も、暖かな住処も、全てが金で買える…

鉱石(あるいは火山)

黒人を見た。 ザラザラとした、光の全てを吸い込みそうな暗い肌、激しくも艶やかに唸る長く伸びた黒髪、それから、決して見透かすことのできない黄色味がかった瞳。 琥珀のような瞳。 まるで鉱石のようだった。 とても美しい彼らを僕は、芸術品か工芸品、そ…

外野の夜明け

喫煙室ではなにやらエモーショナルな話をしている。 「女性はいくつになっても美というものを追究しますよね。もちろん、内から醸し出されるものもあると思います。 どんなにいい服でも、品のない女性が着るとダメなんだよね それが、どう。気品のある婦人が…

欲望の灯

煙草が美味しく感じるようになった。 始めた頃はただ燻臭いだけで何がいいのか分からなかった。ただ煙を身体にためて肺を真っ黒にする自傷的な行為に浸りたいだけだったのかと思う。僕が喫煙を始めたのは5/31、世界禁煙デーだった。遅めの反抗期である。 次…

僕らのいた「こどか」

幼い頃、「こども会館」という施設へよく遊びに行っていた。みんなは「こどか」と呼んでいた。 そこには直径1.4mはありそうな輪っかのおもちゃが置いてあった。僕らは、その穴に入ってゴロゴロと会館内を転がる遊びに明け暮れたものだ。 また、その輪っかを…

オチのないリストランテ

久しぶりにイタリアンにきている。 熟練の手つきで玉ねぎのバラバラ殺人遺体を生産した。よく切れる包丁の刃先で、まるで肩をトントン、と叩くかのように落としていく。このあと彼女らは同様にして骨の一片も残さずミンチにされた牛や豚と混ぜこぜにされて焼…

ドーナッツ

ドーナツがある。 僕はドーナツがだいすき。 特にアンドーナツがすき。 真ん中にその体の半分くらいを占める大きな穴の空いた輪っか。小麦粉と油。 小さい頃、どうしてドーナツに穴が開いているのかよく考えた。輪投げをするためなのか、輪っかを覗いてドー…

そう、僕は女の子になりたかったんだよ。

ワンピースを着たい。 繋ぎ目ひとつない、一枚の布としての服。純粋な布。纏いたい。タイトなワンピースがいい。コクーン型も悪くない。プリーツはない方がいい。フレアワンピースでも、やっぱり縫い目もプリーツもないままで、風に揺れるカーテンのようにド…

破れ鍋に綴じ蓋

昨年末に一目惚れして手に入れた湯町釜の急須、蓋を割ってしまった。 忙しさに翻弄されてテーブルへ置き去りにしたそれを、無造作に忘れ去られたそれを落としてしまった。容易く破れた。 あーあ。 大量生産の、代替品のある、クローンではない僕の急須。 そ…

蛇口をひねる話

ありえない妄想に囚われる時がある。 それは例えば、映画 It であったような蛇口から血が吹き出したり、排水口から髪の毛がワンサカ出てきて引きずりこまれるといった、そんな妄想じみた不安。 洗面台に小さな羽虫が2匹、どこから入ったのか飛んでいた。僕の…

二月の雨と煙草と珈琲と春の青臭さ

朝から糸雨が続く。 LINEの着信は意中からではなく、バイト先の店長から 「売り上げが見込めないので今日はおやすみです。ごめんネ」 なるほど、不意に僕は本日の業務終了を通告された。小田急線快速急行新宿行きに乗ったつもりが長後の辺りで降ろされてしま…

育った街

入る店を間違えた。客と店主がべらべらとおしゃべりをしている。僕は喫茶店でブラックコーヒーと10分少々の読書を嗜みたかっただけなのだ。だからカフェでもなくバーでもパブでもない喫茶店に入るつもりだったのだが、街の角にある小さな門構えに拐かされた…

行きつけの美容院と大人

行きつけの美容院ができた。 少し大人になれた気がした。 髪を切るというのは私にとって一大事である。歯を磨くだとか顔を洗うだとかの様な習慣とは違って、ある種の儀式的な感覚。もちろん、ただ伸び散らかして鬱陶しいから整える場合もあるけれど、多くの…