お茶の声が聴こえるか

二月の雨と煙草と珈琲と春の青臭さ

朝から糸雨が続く。

LINEの着信は意中からではなく、バイト先の店長から

 

「売り上げが見込めないので今日はおやすみです。ごめんネ」

 

なるほど、不意に僕は本日の業務終了を通告された。小田急快速急行新宿行きに乗ったつもりが長後の辺りで降ろされてしまったような気分になる。

 

いつからか、休みを有効に活用できなくなった。仕事か、課題か、約束が入っていないと自分が何をしていいか分からないのだ。明日も休みなので、二の舞を踏まないよう朝11時に美容院の予約を入れる。お財布は寒いし髪を切るには少しばかり早い気もするが、明々後日にはデートがあるし何より気持ちを整えたい。髪の乱れは気の乱れ、顔の1/3は髪の毛なので手を抜かずに生きるのが僕の数少ない決め事なのだ。

 

いくらやる事が見つからないとはいえ、このままでは布団がTime Machineになってしまう。先日に街で見かけた研ぎ屋へ包丁を持っていくことにした。ついでに今朝おもいだした長後の母校近く足繁く通ったラーメン屋にでも行こうか。部活のメイト、当時のガールフレンド、同級生…僕らのカフェはあそこだった。

 

つまり、包丁は研ぎに出さなかった。いわく街のそれは工場への中継ぎでしかなく、研ぎも機械による簡易的なものであるそうだ。挙げ句、3週間もかかるらしい。僕が自分で研いだ方が早くて綺麗で安いじゃないか。1本500円で承ります。調べれば、思い出のラーメン屋さんも閉まっている。ご破算だ、今日の僕はもうダメだ、ダメだめだめだ。

 

踵を返して喫茶を探す、このままでは帰れない。

 

高校生の頃、働きたかった喫茶店がある。当時僕はSS(ショートストーリー)と呼ばれる、所謂ケータイ小説を読み漁ることに腐心していた。その中の一つに、喫茶店で働いたことをきっかけにしてドラマティックな物語が展開する短編があって、その世界観に陶酔していた僕はそれと同じ様に過ごしてみたかったのだ。

 

現実はそう上手くいかない。僕は週6で部活動に打ち込んでいたし、喫茶店は個人経営の小さなお店で従業員を募集する気配は一切ない。そして僕はコーヒーが飲めなかった。

 

結局、一度もお店に入りすらしないまま僕は高校を卒業した。

 

あれから7年、ようやく初めて訪れた思い出の喫茶店。一度も入ったことのない、思い出の店。内装もカップもソーサーも、シュガーキャニスターでさえも僕の好みだ。嗅覚だけは確からしいとひとりごちる。

 

煙草と珈琲を楽しめる程度に歳を重ねてみたが、オトナを想起する香りが思い出させたのは春の青臭さだった。オトナの匂いって、実は青臭さを感ぜられることなのかもしれない。f:id:Whisper_of_tea:20180201163216j:image