お茶の声が聴こえるか

ドーナッツ

ドーナツがある。

僕はドーナツがだいすき。

特にアンドーナツがすき。

 

真ん中にその体の半分くらいを占める大きな穴の空いた輪っか。小麦粉と油。

 

小さい頃、どうしてドーナツに穴が開いているのかよく考えた。輪投げをするためなのか、輪っかを覗いてドーナツを隔てた異世界を観察するためなのか、それともドーナツは串刺しにされて作られるのか。

 

大人になった今改めて考えると、製造上の工夫だったことがわかる。モノに火を通すとき、中央部が最も加熱しにくく生焼けになりやすい。故に、あえてそこを開けてしまうことで加熱時間を短縮し、高温の油でも焦がさずにカラッと揚げられるようにしたというワケだ。

 

でも、穴の開いていないドーナツもある。これは大人になってから知ったことだが、小麦やバターや糖などをこねて作った物体を揚げて仕上げたものは大体、ドーナツと呼ばれるらしい。

 

つまり、穴の開いているドーナツはドーナツの中でも選ばれし種族だったのだ。少数派の、選りすぐりのエリートのみをさして僕は「ドーナツ」と呼んでいたのだ。その他のドーナツになんて目もくれずに。なんてことだろう。ごめん、他のドーナツたち。穴が開いてなくてもあんまり美味しくなくても可愛くなくても、君らもドーナツだよ。あ、アンドーナツちゃん、君は別。1番好きだよ、大好き。

 

 

そんなことを、池袋から2駅も向こうにある薄汚いトイレの男性用便器で用を足しながら考えていた。

僕も、真ん中にその体の半分くらいを占める穴の開いた、れっきとしたドーナツじゃあないか。

 

誰も僕のことをドーナツだなんて呼ばないし、美味しい美味しいと食べてくれるワケでもなければ、一銭の値打ちにもならない打ち棄てられた残骸のようなドーナツではあるが、僕だってドーナツ。