お茶の声が聴こえるか

破れ鍋に綴じ蓋

昨年末に一目惚れして手に入れた湯町釜の急須、蓋を割ってしまった。

忙しさに翻弄されてテーブルへ置き去りにしたそれを、無造作に忘れ去られたそれを落としてしまった。容易く破れた。

 

あーあ。

 

大量生産の、代替品のある、クローンではない僕の急須。

 

 

その話を聞いてもらったらいいアイデアを頂いた。そのアイデアとはつまるところ「金継ぎ」だった。

 

破れた破片を拾い集めて、くっつけて、消えない傷跡をまるで"誇り"とでも言いたげに振りかざすそれは、僕の目指す生き方ともよく似ている。行き詰まるたび白紙に戻して新しい物語を書き始めるような、幼い絵は描きたくない。

 

 

焼き物の器では『貫入』というものがある。粘土と釉薬の収縮率の違いで、熱せられた器が冷める時に表面の釉薬がひび割れて出来るひび模様のことで、職人は意図的にこれを作る。むしろ、この模様こそが器ごとの個性といえる。

しかも、この『貫入』というものは食器を使えば使い込むほどに変化していく。ひび割れ模様がさらにひび割れて、自分だけの模様を自分勝手に描いていく。それを僕らにはもう、止められない。

 

 

だから僕は自分の人生がひび割れていく様子をとても楽しく眺めることができる。正に、俺の物語を育てているというワケ。

 

けれど、破れてしまった恋の行方は、もう戻らない愛については、悲しく思う。

急須の蓋を金継ぎで治すように、僕らの破れた愛を繋ぎとめて輝かせてくれる"金継ぎ職人"がいてくれたらならなあ、なんて。

 

恋は相手を奪って、独り占めする有様で、だから2人きりの世界になる。今日も明日も明後日も、邪魔者が現れないまま2人きりでいられますように、という共犯関係を結ぶことが"恋人"という契約であるように。互いを見つめ合うのが、恋であるように。

愛というのはきっと、同じ方向に向き合って手を繋ぐことだろう。その世界には2人きりじゃない、様々な人間がいて、景色があって、匂いがある。

 

破れた鍋と破れた蓋がいつまで見つめあっても破れたまま。

 

恋人に不満なことがあるなら、きっとよく晴れた荒川の土手にでも出かけて話した方がいい

それとも、夕暮れの湘南でテトラポットに腰掛けてポツリポツリと泪で染めるくらいが丁度いい

 

それでダメなら、どうしようもなく粉々なのだから。

 

『金継ぎ職人』のいる世界でなら僕ら上手くやっていけるかもしれないね。

 

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#エッセイ #エッセー #随筆