お茶の声が聴こえるか

ここではないどこか

東京から遥か彼方800km

島根県へやってきた。

 

毎朝毎晩のように訪れる

仄暗い気持ちから逃げたい

ただその一心だった。

 

 

誰もいない土地

何も知らない土地

下調べは一切なし

 

 

新鮮な感じがする。

今回の旅のおめあては

出雲大社に行くことと、陶器だ。

 

出雲大社はパワースポットとして

スピの界隈では非常に有名である。

 

ここに行ったら良縁が〜とか

なんだか不思議なエナジーが〜とか

なんにせよ元気が出てなにもかも

いい感じにことが進むらしい

 

 

ここ最近の私はとことんダメだ。

 

仕事も恋愛も生活も健康も友情も

なに一つうまくいかない。

歩くたびに小石に蹴躓いて

遂には脳天10針の大怪我、って感じ

 

 

だから、スピリチュアルで

ナチュラルな不思議エナジーには

割と期待してやってきた。

 

結論から言うと、分からなかった。

 

確かに自然は豊かで社は大きくて

綺麗に手入れも行き届いている

気持ちのいい空間だ。

 

 

ただ、寒い。

 

寒さのせいか、長旅の疲弊か

それとも何らかの気にあてられたか

頭が痛い。キーンと耳鳴りがする。

 

 

それはそうと、次の目的

陶器を探しに行こう。

 

こういう時、インターネットは

あまりあてにならない。

 

出西窯がいいとか

坊っちゃん団子が有名だとか

大雑把な情報は手に入るけれど

 

じゃあ実際にどんなものなのか

どこに売っているのか

手触りは…わからない。

 

 

旅の醍醐味は観光でもあるが

こんな時に聞き込みをすることでも

あるように思える。

 

捜査は足で。

 

探偵か刑事にでもなった気分だ。

 

お店のおじさま、

バスで相席したおばあちゃん

茶店のお兄さん

 

色々な人に尋ねてみると

どんどんディティールがハッキリと

見えてくる。

 

茶店のお兄さんに関しては

色々な窯のカップを揃えていて

実物に触れさせてもらうという

この上ない情報を提供してくれた。

 

一瞬で好きになったカップ

森山窯のものであることがわかった 

 

ただ、距離が遠くて

今回の旅では行けそうもない

 

 

湯町窯に行った後

出西窯に行って決めることにした。

 

 

湯町窯の歴史は古い。

大正11年から続く老舗だ。

島根県ふるさと伝統工芸にも選ばれ

広く認知されている陶器である。

 

特徴としては、

スリップウエアーと呼ばれる

独特な模様であったり

釉薬の一種である黄釉が彩る

ホッとするような茶色使い、

海鼠釉の発する仄かなブルー

そして、モダンとエスニックが

交差したような目に残る作りだ。

 

職人による手作りで

一つ一つが違う形

違う顔をしている。

 

 

その中の一つに

グッと心を惹きこまれた。

 

カップとソーサーだから、

2客は欲しい。

 

相方がなかなか見つからない。

まるで恋愛そのものだな。

似ているのに致命的に違ったり

全然似てないのにどこか調和したり

 

迷い探すこと30分

ようやく相方をみつけることが

できた。もう、買う。

 

 

と思っていたところで

誂えたかのようにこの2客と

よく馴染むティーポットが一つ…

 

買えばいいんだろ!!

 

 

旅の先で惚れた食器は

買うことを戸惑ってはいけない。

 

2度と手に入らないかも知れないし

後から欲しくなってもそのために

遠方まで行くのは難しいからだ。

 

 

仕方ない。

彼らが私を呼んでいたんだ…。

 

 

 

そんなこんなで、楽しく過ごした。

 

 

けれど、ふとした瞬間に

鳴りを潜めていた暗い感情が

目を覚ます。

 

 

結局、どこまで逃げても

追いつかれてしまうのだ。

悪魔はどうしても私の心を

通っていくらしい。

 

帰ろう。

 

変な気を起こす前に。

 

 

悪魔から逃れるには

忙しくしている他に術なんて

どこにもないことがよくわかった。